日本映画の感想 『野獣死すべし』
とにかく、優作の変貌ぶりにまず驚かされます。ひょろひょろとした手足、痩せこけた頬、青白い肌・・・なんでも本作のために過酷な減量を敢行したり、奥歯を4本抜いたり、極めつけは原作の主人公と比べ背が高すぎるので、足の骨を削ることを真剣に医師に相談していたという(リム出版「蘇る松田優作」参照)から驚きです。ここまでしただけあって、本作の優作はまさに鬼神、或いは悪魔。見ている者の魂を終始、揺さ振り続けます。
アクションもいつものようなしなやかさとは程遠い所にあります。例えば冒頭のシーン。土砂降りの中で刑事を刺殺し拳銃を奪うのですが、刑事の方が武道の心得でもあるのでしょう、主人公・伊達が一発で狙って仕留められるような相手ではない。そこで、まず相手の足を傷つけて動きを奪い、次に急所を確実に狙う。いつものように華やかでもしなやかでもないですが、実にリアル。銀行強盗のシーンにしても、綿密な計算の割に本番は鮮やかとはいきません。手間取った末、結局、伊達と相棒の鹿賀丈史は大量殺戮をしてしまう。このように、本作での優作はいつものスーパーマンとは違い、あくまで生身の人間として描かれます。これで、『戦場カメラマンとして戦地を渡り歩き→危険に遭遇し、ふと人間を殺してしまった→そのとき言いようのない快感に襲われた→もはや戦地に自らを置かなければ生きていけない』という人物像は際立ちます。
もはや、過激な暴力の場に自分の身を置かなければ気が済まない伊達は、人間的感情を排することにひたすら努め、自分を殺人兵器に仕立て上げることにのみ喜びを見出します。そんな彼の唯一の社会との接点と言えば、クラシック音楽。だからこそ、音楽好きのOL(小林麻美)は、主人公と社会との重要な架け橋になるかもしれない存在でした。しかし、結局はヒロインたる存在をも簡単に射殺してしまう伊達。彼女を殺すことで、完全に社会との接点を断ち切ったわけです。ラスト、女に油断して結局、致命傷を負わされることとなる『蘇える金狼』の朝倉とは対称的です。
東北への夜行列車内、ロシアン・ルーレットをしながら、伊達が刑事にリップ・ヴァン・ウィンクルの寓話を話すシーンは映画史に残るであろう、緊迫感溢れる名シーンだと思います。この時の刑事役・室田さんの汗の量が尋常じゃありません。
『野獣死すべし』
監督:村川透
脚本:丸山昇一
撮影:仙元誠三
音楽:たかしまあきひこ
出演:松田優作、鹿賀丈史、小林麻美、
風間杜夫、岩城滉一、阿藤海、
泉谷しげる、佐藤慶、根岸季衣、
青木義朗、山西道広、室田日出男
(1980、東映・角川春樹事務所)
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