日本以外のアジア映画

韓国映画の感想 『甘い人生』

ソウルのスカイラウンジのマネージャー、ソヌは非情と怜悧さを身上に7年間にわたり裏社会のボス、カンに仕え今の地位を手にした。冷酷なほどに頭の切れる男ソヌは、表にも裏にも通るその手腕により、裏社会にも絶大な力を持つボスの信頼と寵愛を一身に受けていた。ソヌはある日、カンに呼ばれて指示を受ける。彼が1週間上海に所用で行っている間、愛人のヒスを見張ってくれと言うのだが・・・

韓流スター、イ・ビョンホン自ら「代表作」といってはばからないこの作品。
“究極のラブ・ストーリー”というキャッチを信じ込んで、いざ劇場へと足を運んだ多数のビョン様フリークのオバちゃんたちが、おそらくは何人か卒倒したことであろうこの作品。いつもクールでストイックな主人公・ソヌの一瞬の気の迷いから生じる非情な運命が、凄惨なバイオレンスとともに描かれる。バイオレンス映画が三度の飯より大好きな自分としては、なんてこたぁない描写だったが、左手を重厚そうな鉄製のドリルかなにかで思い切り潰されたり、生き埋めにされたり・・・というリンチのシーンは、ちょっと慣れていない人には過激かもしれない。しかしこのシーンしかり、冒頭と中盤で魅せるイ・ビョンホンの立ち回りやラストの銃撃戦には大した工夫こそないものの、思わず唸らずにはいられない、スタイリッシュさとテンポの良さがあって、相当に質が高いと思う。

またこれは単なるヤクザ同士の抗争劇といった類いのものではなく、主人公ソヌが非情な運命に狂わされ、周りもそれに呼応するかのようにその荒波に飲まれて込んでいく原因が、実は一人の若い娘のせいであるということ。しかも男たちが、最後にはこんなにも意地とプライドを賭けて激しいドンパチやってるのに、当の娘は何食わぬ顔で普段と変わらぬ生活を送っている・・・という皮肉は、ラスト近くソヌの洗面所でのセリフ「どうしてこうなった?」というこの一言に集約されていると思う。一見、完璧そうでシビアにも見える裏社会の男たちでも、こんな些細な事で歯車が狂っていく展開は、実社会にもありそうな不条理めいたもののようで、その発想の着眼点は凄く興味深かった。

最後に、この映画を評価する上で最も避けて通れない所、「この映画は本当にラブ・ストーリーなのか!?」ということなのだが、これはラストにソヌがヒスの事を回顧し、涙する理由を昔話かなんかと引っ掛けて“決して叶わぬ甘い夢だったからです”なんて締め括っているあたり、やはりソヌはヒスに一目惚れしてしまっていた、と考えるのが自然だろう。しかしそれなら、ソヌがヒスに惹かれていく過程の描き方が不充分ではなかろうか?その為、彼女のための選択を決断したソヌの心情にイマイチ感情移入し難かった。もう少し時間を割いてエピソードを入れたほうが、より一層ソヌの行動に説得力を持たせる事が出来たかもしれない。まぁ、とにかく「イ・ビョンホン?ヨン様みたいな奴だろ?」とこの映画を完全にスルーしている男どもが結構多いのではないかと思われるので、僕は積極的に薦めるつもりだ。たった一度、「心が揺れた」為に運命の歯車が狂っていく様子が淡々と描かれ、それでも抗いながら戦うイ・ビョンホンの姿に「男の美学」を見る事ができる。これはまさしく男の映画といえる。


 『甘い人生』                                Bittersweet
  監督:キム・ジウン
  脚本:キム・ジウン
  撮影:キム・ジイ
  音楽:ピーチ・プレゼンツ
  出演:イ・ビョンホン、シン・ミナ、チン・グ、
      ファン・ジョンミン、キム・ヨンチョル
  (2005、韓国)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

韓国映画の感想 『クワイエット・ファミリー』

不況の煽りを受けソウルから山奥へと追い出された六人の家族は、一度も経験のないペンション経営で生計を立てようと決心する。しかし、待てど暮らせど客は一向に来る気配がなく、やっと来た初めての客は自殺してしまう。今後の商売に悪影暑を及ぼすと考えた家族は、なんと死体を埋葬。ところが2番目の客、3番目の客と、次々に自分たちの意図とは裏腹に死体を埋める破目となる。こうして死体遺棄の罪を隠すために始まった殺人は一段とスピードを増し、いつしか山荘の周りは墓場となっていく・・・

韓国ブラックコメディの大ヒット作。『甘い人生』のキム・ジウン監督デビュー作。
三池監督『カタクリ家の幸福』のオリジナル版としても有名。でも、個人的には今ひとつノレない映画だった。コメディであるという点は、登場人物たちの間抜けな行動や言動で理解できるのだが、殺しのシーンや画質が全体的に暗くてシックな感じで、そこだけ見ているとまるでシリアスドラマの様。アイデアは秀逸だと思うが、見せ方がシリアスなものだから結局何ともいえない複雑な味わいだけが残る。「全然笑えないけど、これって笑う映画なのか?」という感じ。例えば、画のタッチにしても照明を明るくしたり、セットを派手な原色を基調として作ったりしてみれば、逆に殺人など起こりようもない空間が出来上がって、突拍子の無さや登場人物たちの愛らしいバカさ加減も際立つように思えるのだが。

脚本にも欠陥は多い。当初は一家の父、母、長男、叔父の四人で行っていた死体遺棄。二人の娘たちには、ひた隠しにしていたのだが、途中で娘たちにもその事実が知れることとなる。でも、娘たちは心象描写なしにそんな行動をあっさり受け入れてしまう。他にも、家族たちは警察の追及からどうやって逃れてラストシーンを迎えたのか?火事に巻き込まれたはずの父と母はどうやって火事から逃れたのか?とにかく説明不足な箇所が多い。説明不足な割には、ドタバタコメディーの大事な要素であるスピード感に欠けるので、気だるくもある。


 『クワイエット・ファミリー』                       Quiet_family
  監督:キム・ジウン
  脚本:キム・ジウン
  撮影:チョン・ガンソク
  音楽:チョウ・ヨンソク
  出演:ソン・ガンホ
      パク・インファン
      チェ・ミンシク
      ナ・ムンヒ
      コ・ホギョン
  (1998、韓国)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

韓国映画の感想 『親切なクムジャさん』

パク・チャヌク監督による復讐3部作の最終作。今回は、主演に韓国を代表する女優、イ・ヨンエを迎えた。

陰影に富んだ映像、クラシックなサントラ、復讐者の強烈な推進力・・・
“魅せる”ということに関しては、パク・チャヌク独特の美学がそこかしこに詰まった力作だったように思う。復讐者に扮したイ・ヨンエには、彼女自身が持つ清純なイメージをかなぐり捨てた上で、ドラマ「チャングム」とはまた異種の、殺気に満ちた圧倒的美しさを感じた。しかし、前2作に比べれば面白さには欠ける。

『復讐者に憐れみを』では壮絶なまでの復讐の連鎖、その末に残された虚しさ、悲しさが表現され、『オールド・ボーイ』は“復讐”という陰惨なテーマの中で、ユーモアやギミックを交えつつ、一級のエンタテイメントへと映画そのものが昇華していた。2作品ともにハラハラやドキドキを感じつつ、最終的には重いテーマを突きつけられる、という映画的面白さと影響力を合わせ持った作品だった。
対して、本作ではイ・ヨンエのチェ・ミンシクへの復讐という一点のみに全てがそそがれて、ドンデン返し、畳み掛けるような展開というものが、前2作と比べて欠けている。“復讐”という大テーマを前提に、繰り広げられるドラマに様々な仕掛けや人間模様が映し出される点が前2作の面白さであったはずだが、本作では単に復讐のやり方を主眼に置いているだけのような気がしてならなかった。

クムジャの娘・ジェニーの父親は一体誰?なぜクムジャはペクの誘拐を手伝ったのか?彼を愛しているのなら、復讐の手段とはいえ、結婚させたのはなぜか?僕自身に見逃している描写でもあったのなら反省するが、そこら辺がちょっとわからなかった。やはり誘拐犯の罪をかぶるまでのイ・ヨンエの動機と「親切」というキーワードが意味するものが何なのか?って点が決定的に弱すぎる。そこが作品に魅力が欠けている要因だと思う。


 『親切なクムジャさん』                          Kumujya_2
  監督:パク・チャヌク
  脚本:パク・チャヌク
  出演:イ・ヨンエ
      チェ・ミンシク
      クァク・イェヨン
      キム・シフ
      オ・ダルス
  (2005、韓国)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

韓国映画の感想 『オールド・ボーイ』

前作『復讐者に憐れみを』と同じく、“復讐”をテーマに人間の原罪を問うパク・チャヌク監督作品。15年間意味も判らず、何故か監禁されていた男が、凄惨なやり方でもって監禁の謎を追っていくという、まさに復讐鬼と化した主人公。
しかし、彼自身が監禁されていた理由も実は復讐からくるものであり、しかもその復讐は15年の監禁生活から解放されてからが本当の始まりだった・・・

前作からかなりパワーアップした意外性とシャープな映像で描かれる復讐の連鎖。
監禁した男はこともあろうに実姉と、しかも学校なんかで愛し合うもんだから、こういう結果になったわけで、主人公、オ・デスの犯した罪などほんのちっぽけなものでしかない。「たったあれしきのことであそこまでやるか!?」って思えなくもないが、それは主人公がオ・デスということで我々も主観的にオ・デス目線で観てしまうからそう思ってしまうわけで、監禁した男からすれば、若き日のオ・デスのちょっとしたお喋りも立派な罪と成り得るのだろう。

人は生きている中で、意識するしないに関わらず大小さまざまな罪を犯す。「自分は何も悪いことをしていない」と自覚するのは、「罪」の有無とはまた別の話である。たとえ本人がそれを意識していなくても、生み出された罪は罪として断罪されてしまう。獣は本能のまま赴くので、彼らには嘘がない。対して、人間には理性があるから本能や欲望を抑制出来るのと同時に、嘘や他人を欺くことも容易に出来る。オ・デスの犯した罪・・・秘密をばらすことだってするし、強いては復讐や報復もそうである。つまりこれは人間の原罪を問う物語なのだ。もうここまで来てしまえば、哲学や宗教のカテゴリーにまで侵入せざるを得ない問題をパク・チャヌク監督はこれでもかと我々観る者の前に提示する。

『復讐者に憐れみを』DVD特典のインタビューにおいて、パク・チャヌク監督は自分の復讐劇をリアリズムだと言い放った。所詮、人は自分で自分のことを可愛いと思うわけだし、他人に対しては猫をかぶる。だから、限りなくわかりづらいのだが、実は我々人間は知らず知らずの内に大なり小なり、罪を犯しているのである。たとえ自覚が無くとも、それが大きな罪として自分の前にふりかかる可能性も充分はらんでいるのである。有り得ない、飛躍したシチュエーションは、単純に作劇のためだけに用意されたわけではなく、人間が本質的に持つ部分をあくまでわかりやすい形で提示するためだと思う。

まぁ、しかし・・・パク監督の復讐モノは確かに面白いのだけれど、見終わってドッと疲れる。少々重たい造り。もう少しユーモアや笑いの要素を散りばめて息つく間を与えてくれればなぁとも感じる。


 『オールド・ボーイ』                            Old_boy_2
  監督:パク・チャヌク
  脚本:ワン・ジョユン
      イム・ジュンヒュン
      パク・チャヌク
  撮影:チョン・ジョンヒュン
  出演:チェ・ミンシク
      ユ・ジテ
      カン・へジョン
      チ・デハン
  (2003、韓国)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

韓国映画の感想 『復讐者に憐れみを』

韓国では、作品全体に漂う残虐性とか重さとか救いの無いストーリーに多数の人が拒絶する結果となり、上映わずか2週間で打ち切りになったという映画。

なるほど“娯楽”という観点から見れば、これはとてもじゃないが、そういう代物の作品ではない。拒絶することが普通の感覚ってやつなのだろう。しかし、映画そのものを評価出来る、出来ないって話と、客の入りが良い、悪いという話はまた別だ。なぜなら、最初からこの映画自体が、観る者皆が拒絶するような作りをわざとしているように思えてならないからである。

ドンジン(ソン・ガンホ)のいくら娘を殺されたからって、普通そこまでやるか!?っていうほどの苛烈な復讐の徹底ぶり。リュ(シン・ハギュン)の「この悲劇の全ての根源はお前らだ!」という、少々ご都合主義に思えなくもない臓器ブローカーへの復讐劇。ヨンミ(ペ・ドゥナ)の誘拐肯定論。常人では、とてもじゃないが窺い知れない登場人物たちの異常性とか突飛もない行動の数々は、「残忍な復讐劇を煽るための作劇である」との批判を多く買ったわけだが、僕個人の考え方としては、観る者に登場人物たちへの安易な感情移入を拒んだ結果が、このような人物造形に表れているように思うのである。

復讐の遂行者たちが、見るからに憐れで、どうしようもなく可哀想だと観客が感じた時点で、復讐や報復といった行為の肯定性は成立してしまう。逆に、復讐とは儚く人間の持つ限りなく負の部分であるといった具合のテーマを成立させようとするなら、こういう方法論しか考えられない。少々、現実離れしていてもあくまでモデルケースとしての残忍な復讐を定義するしか方法はないと思う。そういう意味で、本作は人が思わず目を背けたくなる、いうなれば人間のタブーめいた領域に踏み込んでいるわけであり、観客動員が乏しいことは、皮肉にもこの映画の一種の成功を示しているものだと思う。

痛々しい場面がこれでもかと出てくるので心臓の悪い方はご注意を。


 『復讐者に憐れみを』                           Hukusyuu
  監督:パク・チャヌク
  脚本:イ・ジョンヨン
      パク・リダメ
  撮影:キム・ビョンイル
  出演:ソン・ガンホ
      ペ・ドゥナ
      シン・ハギュン
      イム・ジウン
  (2002、韓国)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

韓国映画の感想 『スカーレットレター』

韓国人気若手女優(らしい)、イ・ウンジュの遺作。自殺の原因はいまだ謎に包まれているが、本作は彼女の自殺の遠因になっているのではないか?と噂されるいわくつきの作品。

いざ観始めると、激しいファックシーンこそあるものの、肝心のウンジュ嬢は不自然なポージングでバスト部分はしっかりとガード。これしきで何故自殺しなきゃなんないの?と思っていたら、最後の30分くらいが凄かった。ハン・ソッキュと二人で車のトランクに閉じこもって、血まみれになりながら歓喜や慟哭を繰り返し、遂にはソッキュに銃で撃たれて無残な姿で死んでしまう…
俳優の中には、常人には理解できないほど役にのめり込んでいく人もいるらしい。もし、ウンジュ嬢がそんなタイプであったなら、やっぱり最後までこのカヒという激情型の人間を引きずったままトラウマ化していたのかもしれない。本当にこの映画に自殺の遠因があったとするなら、間違いなくこのシーンがそれに該当するのだろう。

この映画は上記のラスト30分に全て集約されていて、残りの90分程度はその伏線でしかない。その90分が異様に長く感じられて、全体的にはまったりとした印象。後に、二人の女から愛されていると思っていたハン・ソッキュが実は逆に女たちの愛の罠にどっぷりはまり込んでいたのだ、というおそらくは観る者を驚愕させることが狙いの種明かしがされるのだが、それとて全体的に間延びの影響か、衝撃という意味での新鮮さは薄かった。サイドストーリーとして展開される写真館の店主殺しも本筋に大した関連付けもなく終わるのだし、はっきりいって必要無いくらいだ。それならばこの店主殺しのエピソードは排除して、観客には初めからハン・ソッキュが妻と愛人から騙されているのだとわからせた上で、女性の目線から物語を展開させていってはどうだったろうか?

とにかくこの映画は女性の関心が高いみたいである。
単なるナルシストで、優柔不断な恋愛を展開するハン・ソッキュは完全に女性から批判の的として扱われているみたいだ、どうしようもない男の典型だと・・・それなら言わせていただくが、この映画の妻は、自分の彼女を獲られたくない、あるいはずっと近い距離を保っていたいがために、好きでもない男と結婚するのだ。なんでそこまで、まどろっこしいことをするのか?女の方こそ理解できない生き物だ・・・


 『スカーレットレター』                           Retter
  監督:ピョン・ヒョク
  脚本:ピョン・ヒョク
  撮影:チェ・ヒョンギ
  音楽:イ・ジェジン
  出演:ハン・ソッキュ
      イ・ウンジュ
      ソン・ヒョンア
      オム・ジウォン
  (2004、韓国)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

香港映画の感想 『恋する惑星』

王家衛(ウォン・カーウァイ)監督の出世作。
粋な台詞。音楽や映像、小道具までもが洒落ている。謎の女・ブリジット・リンと犯罪捜査官・金城武のエピソードと、下町のファーストフード店で働く少女、フェイ・ウォンと常連客の警官、トニー・レオンのエピソード。二つのお話がまったくかみ合うことなく平行している。ただ、まとまりがないわけではない。「恋」というテーマの下に、時間が流れるようにテンポ良く、シャープに、滑らかに進んでいく。

ところでこの映画、独り言の類がやたらと多いのだが、しゃべるのはほとんど男。金城武のモノローグや、タオルに話しかけるトニー・レオン。
それに比べ、女は黙って行動あるのみ。映画では最後まで、行動を選択するのは女の側。男がやたらと受身な映画。フェイ・ウォンなど、合い鍵まで作って部屋に侵入してくる。この辺りの女性の積極さ、強さ。もう14年前に製作された映画でこんなことを言うのもなんですが、時代ってやつなのでしょう。いや、ただ単にトニー・レオンと金城武がイイ男というだけの話かもしれない。


 『恋する惑星』                                  Koisuruwakusei_2                              
  監督・脚本:ウォン・カーウァイ
  撮影:クリストファー・ドイル
      アンドリュー・ラウ
  出演:トニー・レオン
      ブリジット・リン
      フェイ・ウォン
      金城武
  (1994、香港)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

香港映画の感想 『インファナル・アフェアⅢ 終極無間』

今回はヤン(トニー・レオン)の死後、自分の素性を知る人物の影に怯えるラウ(アンディ・ラウ)の姿と、ヤンが死ぬ前の知られざる過去を死の六ヶ月前から綴る、という現在と過去を交錯させた物語です。壮大なインファナルシリーズの完結編、全ての謎がここで明らかにされる・・・とワクワクだったのですが・・・

現在と過去を交錯させるだけでなく、自分の素性を知る何者かに怯えるラウが徐々に精神に異常をきたしたのかどうかはわかりませんが、幻覚を見るようになって、死んだはずのトニー・レオンやウォン警部と会話をします。精神的にかなりヤられてしまっている感のあるアンディ・ラウはやっぱり無間地獄の深淵に飲み込まれていった、という理解は出来ますが、観ているこっちとしても頭がゴッチャになってきます。更に幻覚ならまだしも幻聴(或いは記憶?)だけの場面もあって、映像にもならないシーンが多数あるからかなり難解な印象です。それに新しいキャラも多数登場し、もうヨンやらヤンやらシェンやらチョンやらウォンやら似たような名前ばかりが氾濫し、ますます頭が混乱します・・・

サムがハウの手下であり弟でもあるヤンを部下にするのはおかしい、と前作のレビューで記しましたが、本作でサムはヤンを取引き場所に置いてけぼりにし、ブツだけを奪い取ってヤンを窮地に追い込むというシーンがあります。結局、現場に集ったのはヤンとシェン(チェン・ダオミン)という他の潜入捜査官、そして刑事のヨンであったために大事には至らなかったのですが、このエピソードなど見るとやはりサムはヤンに心のどこかで疑念を持ちつつ接していたのでしょうか?とにかくサムという人間はインファナルシリーズの最重要キーパーソンなのですが、このオッサンがどうにもこうにもつかみどころが無いというかなんというか…いや別に映画の中の世界でつかみどころが無くて、老獪なのは大いに結構なのですが、せめて観客にははっきりわかる形でこのサムという男の真意を知らしめて欲しかったと思います。

とりあえずはインファナルシリーズの集大成、というよりはインファナルシリーズの番外編といった印象が強いです。前作を見ていないと、これ単品で見ても何が何やらさっぱりわかりませんし、全シリーズ通しで見ても結局は喉に骨がつっかえたままのような・・・釈然としない印象です。
存在意義がありそうで無さそうなこの映画、まるでツインピークスにおける『ローラ・パーマー最期の七日間』のようであります(笑)


 『インファナル・アフェアⅢ 終極無間』                    Infernal_affairs_3
  監督・撮影・製作:アンドリュー・ラウ
  共同監督・脚本:アラン・マック
  脚本:フェリックス・チョン
  出演:トニー・レオン
      アンディ・ラウ
      ケリー・チャン
      エリック・ツァン
  (2003、香港・中国)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

香港映画の感想 『インファナル・アフェアⅡ 無間序曲』

なにかと「香港版ゴッドファーザー」と称されることの多いインファナルシリーズですが、ゴッドファーザーのテイストに一番近いというとこの第2作になると思います。

若き日のヤン(トニー・レオン、今回はショーン・ユー)とラウ(アンディ・ラウ、今回はエディソン・チャン)にスポットを当てているものの、やっぱり二人ともまだまだ駆け出しのペーペー時代の話ですから、二人へのスポット、というよりかはこれから二人の運命を翻弄することになる黒社会の内幕に迫っている印象が強いです。香港マフィアの大ボス、ンガイ・クアンの暗殺をきっかけに色めき立つ4人のボスたちには味があるし、知的かつ物静かな外見ながら組織をより強いものにして、組織の合法化を計ろうとするハウ(フランシス・ン)はまるでゴッドファーザーのマイケル・コルレオーネそのものを思わす存在です。相変わらず曲者なサム(エディソン・ツァン)、そして警察…これらの思惑と野心が交錯する展開には引き込まれっぱなしで、これ単品でも充分に楽しめる映画になっています。

しかし、冷静にインファナルシリーズという括りでみれば納得、ちょっと合点のいかない点もあります。まず、サムがハウの死後、ハウの異母兄弟であるヤンを部下にするのはちょっとおかしいのではないでしょうか?そんなヤバい奴は真っ先に始末するだろう、普通。それにこんなに内偵者が蔓延る黒社会において、ハウの弟でなくともヤンは外様であり、確実に身辺を調べ挙げられるのではないでしょうか?そうすればヤンが警察学校の退学者であるということも割り出せて、警察の内偵者だと真っ先に疑われるのでは?他にも、サムの妻は警察の内偵者であったのか?それとも夫であるサムをのし上がらせたい一心でウォン警部に半ばそそのかされた恰好で、クァン殺しの手引きをしたのでしょうか?これもはっきりしない点の一つ。

とはいえ、アンディ・ラウとトニー・レオンも出ない続編(体裁としては序章ですが)でここまで楽しめる作品に仕上げたことは賞賛に値すると思います。とくにフランシス・ン演じるハウの静かな野心と激情、それに対峙するサムの老獪ぶりにはかなりの見応えがあります。


 『インファナル・アフェアⅡ 無間序曲』                     Infernal_affairs_2_2                   
  監督・撮影・製作:アンドリュー・ラウ
  共同監督・脚本:アラン・マック
  脚本:フェリックス・チョン
  出演:エディソン・チャン
      ショーン・ユー
      エリック・ツァン
      フランシス・ン
  (2003、香港・中国・シンガポール)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

香港映画の感想 『インファナル・アフェア 無間道』

スコセッシ、ディカプリオ、マット・デイモンという面子でハリウッドでリメイクされたのが有名な映画です。僕自身、かなりお気に入りで複数回見ている映画です。

思うにこの映画はアイデアの勝利だと思います。
警察と暗黒組織との内偵モノとは使い古されたストーリーですが、もう一歩踏み込んで、両陣営ともども相互に内偵者を送り込んでその二人がめくるめく駆け引きをする、なんてストーリー展開は今までには無かったものです。

二人の主人公、ヤン(トニー・レオン)とラウ(アンディ・ラウ)はそれぞれ警察に浸透したマフィアとマフィアに浸透した警察の内偵者であり、本当の自分とは正反対の身分を手に入れることになる。このことにより、彼らは生きながらにしてこの上ない苦しみを味わう、
“無間地獄”にいるかのような人生を歩むことになるのです。しかし、これはどう考えても警察側に身を置くアンディ・ラウの方が有利。自分のさじ加減次第で親分を裏切り、悪人から善人へ転化してしまうのだし、自分のことを内偵者だと感づいた警察側の内偵者、トニー・レオンのデータを抹消することだって、同じマフィアの内偵者である後輩刑事には命を救ってもらいながらも、口封じのため殺すことさえする。思いのまま、マフィアよりもよっぽど悪玉です(笑)

この映画の副題が“無間道”= 無間地獄です。無間地獄とは中国の仏教教典に由来しているらしく、「等活地獄」「黒縄地獄」「衆生地獄」「叫喚地獄」「大叫喚地獄」「焦熱地獄」「大焦熱地獄」「無間地獄」からなる八大地獄の最も最下層に位置します。つまり、一旦この地獄に入れば助かることはなく、永遠に終わりのない厳しい苦難を受け続けることになるのです。本作で無念にも死んでしまったトニー・レオンは実は無間地獄からアンディ・ラウよりも早く解放された分、幸せなのかもしれません。そう、きっとアンディ・ラウにはこの後も過酷な無間地獄が待ち構えている。だって、この映画3部作ですもんねぇ。



 『インファナル・アフェア 無間道』                     Infernal_affairs1_2
  監督・撮影・製作:アンドリュー・ラウ
  共同監督・脚本:アラン・マック
  脚本:フェリックス・チョン
  出演:トニー・レオン
      アンディ・ラウ
      ケリー・チャン
      エリック・ツァン
  (2002、香港)

| | コメント (0) | トラックバック (0)