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2010年11月

2010年11月19日 (金)

日本映画の感想 『炎上』

金閣が美しいのは、金閣そのものの建築様式や色合いが優れているから、というだけでもないだろう。美の対象は金閣であっても、そうでなくても、なんでも良いわけで、要はそれにどれだけの人間が魅せられ、そして魅せられた人間は自らの醜悪さに辟易とし、その美しいものへの賛辞の表れとして、どれだけ狂い果てることが出来るのか?強いては、その醜悪な羨望が多ければ多いほど、美はますます崇高さを増していくのである。

この映画の
驟閣に魅せられた溝口(市川雷蔵)も醜悪なものとして描かれる。見た目は素朴な青年といった感じだが、吃音で塞ぎがちな青春時代を過ごしてきたために、社会的コミュニケーション能力がまったく欠如している。溝口は驟閣を唯一つの心の拠り所として、刹那的なまでに崇め、そしてその美にのめり込んでいく。

溝口と対照的な男は戸苅(仲代達矢)。この時代の
内反足だ。現代のように障害者として、社会的にケアされるような時代ではない。ビッコ、カタワと呼ばれ続け、常に蔑まれながら生きてきた。吃音の溝口とは、その障害が目に見えるものか、見えないものか、という差がある。見た目にそれとわかるハンデを背負って生きてきた戸苅の方が、どちらかといえば可哀相な境遇であったわけだが、戸苅はそれを逆手にとって、痛々しい姿で女性の母性本能をくすぐり、次々と女をとっかえひっかえするほどの逞しさを持ち合わせていた。この二人の対比が物語のミソとなる。

同じく障害を持つ戸苅と傷を舐めいたかったのか、なんとなく擦り寄る溝口であったが、常に内向的な溝口に戸苅の持つ、えげつないほどのバイタリティなど理解できるはずも無かった。溝口は、老師や同門の徒弟、男癖の悪い母親ら、周囲の人間が見せる生々しい欲望に激しく嫌悪し反発する。反発するといっても溝口には、いっそう塞ぎこみ孤立することでしか反発の方法は無かった。こうして溝口は、俗世の全てを否定し拒絶する。「驟閣は誰のものでもない」と戸苅に断言する溝口であったが、驟閣の美を他の誰にも汚されたくはなかった。溝口は、驟閣に火を放つことで、自らの中にのみ、未来永劫の美をしまい込もうとするのであった。

大映の反対を押し切ってまで、この映画に出演した大スター・市川雷蔵、一世一代の名演である。同時代の他のスターにこの役をあてがっても、たぶんここまで完璧には演じきれなかっただろう。市川雷蔵などまったく知らない、若い世代にこの雷蔵の演技を見せれば、本当にドモリの素人俳優かと思ってしまうかもしれないし、また、覚束ない危うい感じがデビュー間もない俳優だという印象を与えてしまう気がする。その感覚を、当時、絶対的な権威を誇った剣劇スターが、ちょんまげを脱いで、演技として表現しているという凄味である。複雑な生い立ちであったという雷蔵自身、この主人公にどこか自分の出自を重ね合わせながら、演じていたのかもしれない。
内反足の戸苅を演じるのは、仲代達矢。ギラギラとした目が怖い仲代。溝口に向かって「お前、ドモリだって京都中に言いふらしてやろうか?俺みたいに見た目に醜ければ、何でも超越出来るんだよ!」って、屈折してるなぁ。
この映画で各映画賞を総ナメしたのが、驟閣の老師演じる二代目中村鴈治郎。中村玉緒のお父さん。ちなみに玉緒も、溝口が五番町で買った売春婦役で出演している。


『炎上』                                    Enjyo
 監督:市川崑
 脚本:和田夏十
     長谷部慶治
 撮影:宮川一夫
 音楽:黛敏郎
 出演:市川雷蔵、仲代達矢、新珠三千代、
     中村鴈治郎、中村玉緒、北林谷栄、
     信欣三、浜村純、香川良介
 (1958、大映)

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2010年11月16日 (火)

日本映画の感想 『カイジ 人生逆転ゲーム』

福本伸行の人気ギャンブル編、「カイジ」の実写映画化。評判は概ね好評であったのか、来年には映画化第2弾も企画されているみたいである。原作のイメージに合っているのか、合っていないのか、イマイチよくわからない兵藤会長を演じた佐藤慶にとってはこれが遺作。

原作では、エスポワールでのジャンケン対決に端を発し、カイジは帝愛グループの仕掛けるギャンブル地獄にどんどん嵌まり込むこととなる。
映画版でも、エスポワールからスタートして、鉄橋渡り、利根川とのEカード対決とだいたい原作通りの流れを踏襲しているが、エスポワール内で共闘した石田がドジをしてしまったばかりに、原作では第2章で描かれている地下労働施設に、いったんは送り込まれることとなる。カイジとのEカード対決に敗れた利根川、原作では“お仕置”として兵藤会長から熱々鉄板の上での土下座を強いられるが、映画版にはそのような描写は無し。

このように少々原作とは違う部分も存在するが、一本の映画としてコンパクトにまとめる必要性もあるだろうから、ここまではまぁいい。
問題は、カイジを帝愛グループのギャンブルに誘い込む金融屋の遠藤だ。この遠藤の存在が原作と映画との一番大きく異なる点で、なんと映画版での遠藤は女(天海祐希)である。Sっ気をバリバリに発揮してくる天海祐希のキャラ自体は、作品世界によくマッチしていて問題はない。それよりも問題は、カイジが利根川との勝負で得た大金を、なんとこの女遠藤はカイジを睡眠薬で眠らせて、根こそぎかっさらうのである。

確かに原作でも、遠藤はバクチ銭を融資する際、勝負に熱くなるカイジを見透かして、密かに分単位の法外な利息設定を設けてはいたが、それでもあくまで元金と利息内の取り分しか遠藤は要求しなかったわけである。あまりにも単純で姑息なこういうオチの付け方は、原作の持つ綿密なプロットを台無しにしているように思うんだが。

映画化第2弾にあたっては、女金融屋・遠藤の出番はあるのだろうか?原作では遠藤がキーマンとなる時期はかなり長い。再登場させるのであれば、まずは今回のお粗末なオチをうまい具合に回収する必要がありそうだ。


『カイジ 人生逆転ゲーム』                        Kaiji
 監督:佐藤東弥
 原作:福本伸行
 脚本:大森美香
 撮影:柳島克己
 音楽:菅野祐悟
 出演:藤原竜也、天海祐希、香川照之、
     佐藤慶、山本太郎、松山ケンイチ、
     松尾スズキ、光石研、吉高由里子
 (2009、『カイジ』製作委員会)

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日本映画の感想 『秋深き』

地上波で深夜に放送されていたものを鑑賞。
昭和の文豪・織田作之助の原作を現代調にアレンジ。純愛もの。

ペーソスも笑いの要素もほどよく盛り込まれていてなかなかの佳品。眠たくならない程度にゆらゆらと引き込まれ、結局最後まで鑑賞。
そして、エンドロールを見て驚いた。監督が池田敏春で脚本が西岡琢也。かつてのロマンポルノ、ピンクの雄がタッグを組んで(ATG『人魚伝説』でも一緒に仕事をしているみたいだが)、こんな映画を作るようになったのかと、後追い世代ながらしみじみ思うに至る。

八嶋智人は随分と流暢に関西弁を操る。後日、調べてみれば奈良出身。生粋の関西人だったのか。それに比べ、普段から阪神大震災被災者であることを公言しているわりに、佐藤絵梨子の関西弁はちょっとお粗末なように感じた。

それにしても、園田競馬がこれだけクローズアップされる映画も珍しい(というか殆ど無いだろう)。
園田名物・吉田アナまでチラッと顔を見せるサービスぶり。ちなみに佐藤絵梨子演じるヒロイン・一代(カズヨ)にかけて、八嶋がこだわり続ける買い目、1-4はロケ時に実際1-4が来たそうである。園田は比較的外枠が有利だもんなぁ。おかげで、実際に園田のターフビジョンに1番と4番が叩き合う絵を収めることに見事成功している。


『秋深き』                                    Akihukaki
 監督:池田敏春
 脚本:西岡琢也
 撮影:水谷奨
 音楽:本多俊之
 出演:佐藤絵梨子、八嶋智人、渋谷天外、
     山田スミ子、佐藤浩市、赤井英和
 (2008『秋深き』製作委員会)

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2010年11月 7日 (日)

日本映画の感想 『蘇える金狼』

松田優作がアクションスターとして油の乗り切っていた頃の映画である。この後、自ら肉体派としての看板を下ろし、最後の作品となった『ブラック・レイン』まで、ひたすらに静の演技を模索していたことを鑑みれば、アクション俳優・松田優作の集大成的作品だと位置づけられるかもしれない(翌年製作の『野獣死すべし』では、優作は歯を抜き、背を低くするために足の骨を削ることまで考案。“生気のまるで無い殺人マシン”というキャラ造型を徹底しており、正統派アクションからは外れた作風で、個人的には異色作と位置づけている)。

とはいえ、別に世に言われるほどの名作とは思えない。とにかく、合間合間に挟まれる主人公・朝倉のクラシックを聞きながら、ヘンなお面を被ったりしつつの自画自賛シーンが冗長過ぎて、テンポが悪い。まぁ、角川映画らしいといえば、らしいシーンではあるのだが。

とにかくこの映画、クセ者俳優たちの大見本市という感じである。これが個人的には楽しかったりする。
主人公・朝倉が勤める東和油脂の経理部次長が小池朝雄御大。経理部長が成田三樹夫。専務が草薙幸二郎で社長が佐藤慶。まことに胡散臭い会社である。成田三樹夫経理部長の女で、朝倉に利用されるのが風吹ジュン。朝倉の同僚に岩城晃一と加藤健一。佐藤慶社長の末娘に真行寺君枝。東和油脂を強請る小悪党に千葉真一。千葉真一の女・結城しのぶ。千葉真一の叔父で経済界の大物・安部徹。安部徹の腹心に椎谷建治、江角英明。千葉真一への対策として東和油脂に雇われた興信所所長が岸田森。岸田森の部下・高橋明。岸田森が雇った神戸の殺し屋・待田京介(意外なほどのチョイ役)とトビー門口。ヘロイン取引で私服を肥やす悪い政治家に南原宏治。南原宏治の手先となって働いていたヤクザが今井健二、阿藤海、山西道広。朝倉に現金輸送車を襲われた銀行の専務が久米明。ラストシーンのスチュワーデス役が中島ゆたか。


『蘇える金狼』                                Kinrou_2
 監督:村川透
 脚本:永原秀一
 撮影:仙元誠三
 音楽:鈴木清司
 出演:松田優作、風吹ジュン、千葉真一、
     佐藤慶、小池朝雄、成田三樹夫、
     安部徹、岸田森、待田京介、阿藤海、
     岩城晃一、今井健二、結城しのぶ、
     久米明、山西道広、南原宏治
 (1979、角川春樹事務所)

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2010年11月 6日 (土)

日本映画の感想 『人妻探偵 尻軽セックス事件簿』

衛星劇場にて鑑賞。オーピー映画。

人妻・志村かおるは、ラブホテル街で不倫現場をパパラッチされる。妻の浮気を心配した夫が探偵を雇ったのだった。これが原因で離婚するに至ったかほるは、探偵事務所に押し掛け、先の見込みが立たない私を雇えと要求。ここに人妻探偵(厳密に言うと離婚しているので人妻ではないが)・かおるが誕生した。タイトル通りの尻軽なバイタリティと粗暴さのかおるにお目付け役の古畑かぶれの先輩探偵もタジタジ。そんなかおるにある仕事が舞い込む。それは、影のありそうなアラフォー主婦からの「ある男の消息を探して欲しい」という依頼であった。

竹洞哲也監督というと、数年前に吉沢秋歩の「美少女図鑑 なんたらかんたら」(副題は忘れた)という作品を見たことがあるな。青臭いまでの青春ドラマをこれでもかと見せ付けられた覚えがある。で、数年ぶりにこの監督の作品を見たのだが、基本的には同じ作風を貫いている様子である。アラフォー世代の男女が同窓会で再会。お互いに学生時代は両想いだったことを知り、改めて愛を確認するに至る。ただし、女には夫が居り、不倫の間柄。二人は一年に一回だけ、決まった場所、決まった時間に逢瀬を楽しもうと約束するのだった。
まさか、彦星様と織姫様じゃあるまい。よく、こういう歯の浮くようなホンを書けるもんだと思うのだが、ここまで恥ずかしげも無く、あらん限りの心血注いで、主役級、準主役級の絡みをおざなりにしてまでも丹念に描かれると、ある意味感心したりもするわけである。予備知識無しに映画を見始めて、まさかあの監督(「美少女図鑑 なんたらかんたら」を撮った)ではあるまいな、と調べてみたら、やっぱりそうだったというケースは自分の中では稀有である。

かすみ果穂は、なかなかの堂に入った演技。さすがはおねマス軍団といったところか。よくピンクに出演するAV女優にありがちな演技の拙さはなし。


『人妻探偵 尻軽セックス事件簿』                    5738_2_2
 監督:竹洞哲也
 脚本:小松公典
 撮影:創優和
 音楽:興語一平
 出演:かすみ果穂、AYA、友田真希、
     倖田李梨、岡田智宏、サーモン鮭山
 (2009、ブルーフォレストフィルム)

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必殺仕置屋稼業 第27話 『一筆啓上大奥が見えた』

元々商人の横溝甚兵衛(山田禪ニ)は、娘を大奥に差し出すことにより、武士の位を得ていた(劇中では“蛍侍”という呼び方で皮肉られている)。差し出した娘が将軍に見初められ、その子を宿す快挙を成し遂げれば、更なる出世が期待できるとあって、横溝は他所の娘を養女にし、次々と大奥へ差し出すということを繰り返していた。横溝に差し出された娘の一人、おとき(ひろみどり)は、愛を誓い合った男とともに大奥から駆け落ちするも、二人は横溝の手下の浪人にあっけなく斬られる。おときの駆け落ちを手引したのは、横溝の実娘・おさと(本阿弥周子)であった。それを知った横溝は、風評が広まるのを恐れ、浪人を使っておさとを殺害。そして次なる標的として、おときの妹・おみわ(竹下景子)に狙いを定めるのだった。

本阿弥さんが、珍しく良識派の役どころを演じる。この当時の本阿弥さんは、本当に綺麗で妖艶。そして半端ないエロさ。それに比べ、若かりし頃の竹下景子はなんともイモ臭い。

横溝の仕置担当は市松。横溝配下の浪人は印玄担当。屈強そうな浪人であるが、これでも印玄の手にかかれば容易い。腕の骨を折られたあげく、屋根上で末期の酒を浴びるように呑まされて、滴り落ちる酒に滑りながら屋根から転げ落ちて死ぬ。冒頭、駆け落ちの末、おときが斬られた現場に真っ先に駆けつけたのは、見廻り中の主水であった。主水は圧力をかけられて「今夜の一件は見なかったことにせよ」と、おとき殺しを揉み消されんとしたことが、今回の調査のきっかけ。おときが斬られた現場に居合わせた大奥付の役人は、横溝に買収されており、こいつらの仕置を主水が担当。仕置き後、「今夜のことも見なかったことにしていただきたい・・・」とオウム返し。

劇中、奉行所の床の間には、立派な鏡餅が飾られていた。調べてみると放映日が76年の1月2日。現代であれば、一週前の放映を休止して、「必殺仕置屋稼業新春2時間スペシャル 一筆啓上初夢が見えた」(21:00~22:54)くらいの企画が成り立っていたのだろうか・・・


ゲスト:竹下景子、本阿弥周子、山田禪ニ、ひろみどり        Shiokiya

脚本:國弘威雄

監督:渡邊祐介

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